Epsilonイプシロン
イプシロンロケットとは
イプシロンロケットは、日本の宇宙研究開発機構(JAXA)とIHIエアロスペース社で共同開発された日本の小型液体ロケットです。同様にJAXAが運用中の主力ロケットH3との大きな違いは、使用される推進剤・大きさ・価格・打ち上げ能力などです。
H3ロケットは主に液体燃料を使用する「大型液体燃料ロケット」ですが、イプシロンは固体燃料を使用する「小型固体燃料ロケット」です。日本は2種類のロケットを開発・運用することにより、液体・固体ロケット双方の技術を維持しています。
H3が太陽同期軌道に4,000kg以上のペイロード(荷物)を打ち上げる事ができる一方、イプシロン(強化型)は590kg前後にとどまります。しかし打ち上げ費用は圧倒的にイプシロンの方が安価な為、必要に応じて使い分ける事ができます。
イプシロンロケットには試験機型・強化型・S型など様々な形態が存在しますが、イプシロンロケットシリーズは全て鹿児島県にある内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられます。
イプロシンの特徴と試験機
イプシロンの特徴は、低コストで運用できる事にあります。以前運用されていたM-V(ミューファイブ)固体ロケットは、イプシロンより高い打ち上げ能力を有していたものの、非常に高コストで使い辛い点があるロケットでした。そこでイプシロンは打ち上げ1回あたり30億円、「世界一コンパクトな打ち上げ」を目指して開発が進められました。
第1段ロケットにはHー2Aロケットの固体ロケットブースターSRB-A、第2段ロケットはミューファイブの第3段改良型、第3段ロケットにはミューファイブの第4段改良型を採用する事により、短期間・低コストでのロケットを開発する事に成功しています。さらにロケット本体のみならず、発射管制に必要な機器を小型化・低コスト化、さらに発射管制は従来80人体制だったものを最小8人まで減らす事ができました。
これらの目標を掲げて開発されたイプシロンロケット試験機(1号機)は2023年9月14日に内之浦より打ち上げられ、搭載していた惑星分光観測衛星「ひさき」を予定の軌道に投入する事に成功しました。
イプシロン強化型
イプシロンロケット試験機型は1号機のみで、その後2~6号機は強化型と呼ばれるタイプとなっています。強化型は様々な改良が加えられていますが、主な変更点として2段モータの大型化による打ち上げ能力増大、フェアリング内の衛星包絡域の拡大、衛星分離機構の低衝撃化が計られています。
試験機に搭載されていたPBS(小型液体推進装置)はオプションとなり、搭載する場合は固体燃料モータだけでは難しい高い精度で軌道投入する事が可能です。また複数衛星搭載構造(ESMS)も開発されており、初めて適用されたイプシロン4号機では計7基の衛星を、イプシロン5号機で計9機の衛星を軌道投入する事に成功しています。
イプシロンは試験機から5号機まで完璧な打ち上げを見せていましたが、2022年10月に打ち上げた6号機は飛翔中に異常が発生し指令破壊が実行され、打ち上げは失敗しました。[詳細]
イプシロンSの開発
イプシロン強化型の運用は6号機で終了し、2024年12月現在は強化型を改良した「イプシロンSロケット」の開発が進められています。これはJAXAと三菱重工が開発した主力ロケットH3の開発成果等を活用して、さらなる打ち上げ能力向上・コストの低減・信頼性を向上させた能力向上型イプシロンです。
主な変更は、第1段ロケットがHー2Aの運用終了に伴いH3の固体ロケットブースターSRB-3を改良したものに変更にした事、第2・3段ロケットを大型化した事があげられます。また多くの部品・技術・推進薬をH3ロケットと共通化する事で開発の効率化、低コスト化を計っています。打ち上げ能力は太陽同期軌道への600kg以上、低軌道(高度500km)に1400kg以上を目標に開発が進められています。
イプシロンS実証機(7号機)は当初、2023年打ち上げを目標に開発が進められていましたが2023年7月14日、能代ロケット実験場で第2段固体モーターが燃焼試験中に爆発。人的被害はなかったものの、施設が大きく破壊されました。原因究明の結果、イグブースタ(点火装置)の溶融による異常燃焼が原因と判断されました。
事故原因の対策が計れた後の2024年11月26日、種子島で再度燃焼試験が実施されましたが点火約50秒後に爆発。燃焼試験中の燃焼圧力の予定外の上昇・燃焼ガスのリークが確認されていますが、2024年12月05日時点では原因の特定には至っていません。イプシロンS実証機の打ち上げは、爆発事故の影響で2025年度下半期以降への延期が確実な状況となっています。
さらなる将来構想
IHIエアロスペースは、イプシロンSの高頻度打ち上げを計画しています。内之浦宇宙空間観測所の打ち上げは年間数機が限度な為、国内外の別射場での打ち上げも検討している模様です。また打ち上げ能力向上や上段ロケットのデブリ化防止をを目的とした、上段ロケットの液体化(メタン?)も検討して模様で、今後の展開が期待されます。
イプシロンロケットの性能、及び類似ロケットの比較
機体名 | イプシロン | ミューファイブ | H-2A |
---|---|---|---|
開発国 [運用主体] | 日本 [JAXA・IA] | 日本 [JAXA] | 日本 [JAXA・三菱重工] |
運用状況 [運用期間] | 運用中 [2013年~] | 退役済 [1997年~2006年] | 運用中 [2001年~] |
燃料 | 固体燃料 | 固体燃料 | 液体水素 |
直径/重量 | 2.6m/95トン | 2.5m/140トン | 4m/445トン |
打ち上げ費用 [推定値] | 30億円~ | 75億円~ | 80~120億円 |
成功率 | 83% [5回/6回] | 85% [6回/7回] | 97% [47回/48回] |
打ち上げ能力 [低軌道] |
1.2トン~ [高度250×500km] | 1.85トン [高度250km] | 10~15トン [高度300km] |
打ち上げ能力 [太陽同期軌道] |
0.59トン [高度500km] | - | 3.6~4.4トン [高度800km] |
打ち上げ能力 [静止遷移軌道] | - | - | 4~6トン |
備考 | 上記は強化型のスペック | 2023年01月時点 H-2A204型含む |