カイロスロケットKairos
カイロスロケットとは
カイロスは、日本の民間ロケットベンチャー企業「スペースワン」が開発中の衛星打ち上げ用の3段式小型固体燃料ロケットです。スペースワンはキヤノングループの一員であるキヤノン電子が中核となり、イプロシンロケットを開発したIHIエアロスペースや、宇宙開発に積極的な清水建設他数社の出資により設立されました。
同じ固体ロケットであるイプシロンロケットと比較して1/4位のだいぶ小型のロケットですが、軌道傾斜角45度・高度500kmの低軌道に210kg以上、太陽同期軌道に150kgのペイロードを投入可能です。主な開発コンセプトは契約から打ち上げまでの短縮化、「世界最短・最高頻度」を掲げ、年間30回の打ち上げを目指して開発が続けられています。
スペースポート紀伊
日本の衛星打ち上げロケットは、鹿児島県の種子島宇宙センター・内之浦宇宙空間観測所、或るいは北海道の北海道スペースポートから打ち上げられるものしかありませんでしたが、このロケットは本州・和歌山県の「スペースポート紀伊」から打ち上げられます。スペースポート紀伊はカイロスの為に新設されたロケット発射場です。
これまでロケット発射場は鹿児島県や北海道にしかなかった事を考えると、本州にできるこの「スペースポート紀伊」はより多くの日本人が宇宙開発を身近に感じる事が出来るきっかけになるかもしれません。
キヤノン電子
キヤノン電子は、スペースワンの筆頭株主です。有利子負債はほんどなく、実質無借金経営を続けながら毎年50億円前後の利益を計上している財務優良企業です。ロケット開発には多額の資金がかかる為、収益・財務基盤がしっかりした企業が大株主である事はカイロスにとって大きな強みとなっています。
キヤノン電子はすでに超小型の地球観測衛星を開発・運用しています。これらの衛星はこれまで海外のロケットで打ち上げられていましたが、今後はカイロスが使用される可能性があります。最も新しい地球観測衛星「CE-SAT-IE」は重量70kg程ですから、カイロスなら2機同時に打ち上げる事が可能です。同社は超小型地球観測衛星の量産を目指しており、これらの打ち上げ需要を獲得できそうな事もカイロスにとって大きな強みです。
カイロス初号機
カイロス初号機は幾度の延期を経て2024年03月13日、スペースポート紀伊から打ち上げられました。しかし打ち上げから5秒後、カイロスに搭載されていた自律飛行安全システムが飛行計画からの逸脱を検知。自爆システムが作動し爆散しました。調査の結果、原因は第1段ロケットの推進薬燃焼速度の計算プロセスに問題があり、ロケットが予定した速度が達していなかった為と判明しました。
推進薬燃焼速度計測プロセスを見直し、自律飛行安全システムを修正する事により2号機の打ち上げ成功を目指しています。2号機は2024年12月頃に打ち上げられる予定です。
カイロス増強型
2024年3月8日、スペースワンと防衛省はカイロスロケット増強型の研究について契約が成立したと発表しました。これはカイロスロケットの上段ステージ(第3段モーター)の代わりに、推力3トン級のメタン(≒LNG)エンジンを新規開発・置き換える事により、打ち上げ能力の向上や軌道投入精度の向上を目指すものです。打ち上げ能力は、標準型カイロスロケットでは高度500km・太陽同期軌道のペイロード投入能力が150kgだったものが、250kgまで増大します。
このプロジェクトは契約により防衛省から約85億円が支出される事になっています。さらに文部科学省の中小企業イノベーション創出推進基金にも採択されており、これまで約15億円の交付が決定しています。
メタンエンジンは次世代ロケット燃料として注目されています。スペースワンの主要株主であるIHIエアロスペースは、メタンエンジンを研究していた経緯があり、それらの知見が生かされたメタンエンジンが搭載される可能性があります。この増強型は2027年頃の打ち上げを目指して開発がすすめられています。
カイロスロケットの性能、及び類似ロケットとの比較
機体名 | カイロス | イプシロン | ミューファイブ |
---|---|---|---|
開発国 [運用主体] | 日本 [スペースワン] | 日本 [JAXA・IA] | 日本 [JAXA] |
運用状況 [運用期間] | 開発中 | 運用中 [2013年~] | 退役済 [1997年~2006年] |
燃料 | 固体燃料 | 固体燃料 | 固体燃料 |
直径/重量 | 1.35m/23トン | 2.6m/95トン | 2.5m/140トン |
打ち上げ費用 [推定値] | 10億円(試験初号機) | 30億円~ | 75億円~ |
成功率 | 0% [0回/1回] | 83% [5回/6回] | 85% [6回/7回] |
打ち上げ能力 [低軌道] |
0.24トン [高度300km] | 1.2トン~ [高度250×500km] | 1.85トン [高度250km] |
打ち上げ能力 [太陽同期軌道] |
0.15トン [高度500km] | 0.59トン [高度500km] | - |
打ち上げ能力 [静止遷移軌道] | - | - | - |
備考 | 2024年10月14日時点 |