カイロスロケットKairos
カイロスロケットとは
カイロスは、日本の民間ロケットベンチャー企業『スペースワン』が開発中の衛星打ち上げ用の小型固体燃料ロケットです。スペースワンはキヤノングループの一員である「キヤノン電子」が中核となり、他にもイプロシンロケットを開発したIHIエアロスペースや、宇宙開発に積極的な清水建設他数社の出資により設立されました。
どのようなロケットモータを積むのか等、非公開の情報が多いのですが、公表されている機体規模・打ち上げ能力は同じ固体ロケットであるイプシロンロケットと比較して1/4位のだいぶ小型のロケットです。主な開発コンセプトは契約から打ち上げまでの短縮化、「世界最短・最高頻度」を掲げ、年間30回の打ち上げを目指して、開発が続けられています。
スペースポート紀伊
日本の衛星打ち上げロケットは、鹿児島県の種子島宇宙センター・内之浦宇宙空間観測所、或るいは北海道の北海道スペースポートから打ち上げられるものしかありませんでしたが、このロケットは本州・和歌山県の『スペースポート紀伊』から打ち上げられます。スペースポート紀伊はカイロスの為に新設されたロケット発射場です。
これまでロケット発射場は鹿児島県や北海道にしかなかった事を考えると、本州にできるこの「スペースポート紀伊」はより多くの日本人が宇宙開発を身近に感じる事が出来るきっかけになるかもしれません。
キヤノン電子
キヤノン電子は、スペースワンの株式44%を保有している筆頭株主です。有利子負債はほんどなく、実質無借金経営を続けながら毎年50億円前後の利益を計上している財務優良企業です。ロケット開発には多額の資金がかかる為、収益・財務基盤がしっかりした企業が大株主である事はカイロスにとって大きな強みとなっています。
キヤノン電子はすでに超小型の地球観測衛星を開発・運用しています。これらの衛星はこれまで海外のロケットで打ち上げられていましたが、今後はカイロスが使用される可能性が高いです。最も新しい地球観測衛星「CE-SAT-IE」は重量70kg程ですから、カイロスなら2機を同時に打ち上げる事が可能です。同社は超小型地球観測衛星の量産を目指しており、これらの打ち上げ需要を獲得できそうな事もカイロスにとって大きな強みです。
なおキヤノン電子は、スペースワンの筆頭株主であるにも関わらず、派遣する取締役を減らし、子会社から持ち分法適用会社に変更しています。
カイロス初号機
カイロス初号機は度重なる延期を経て2024年03月13日、スペースポート紀伊から打ち上げられました。しかし打ち上げから5秒後、カイロスのFTS(≒自爆システム)が起動し、爆散しました。搭載されていた政府の試験衛星も喪失しています。なおこの件における、死傷者はいません。
なぜFTSが起動したのか?カイロスロケットの自動診断システムが予定範囲外の動作を感知してFTSが起動したのか、或いはFTS自体が誤作動したのかは分かっておらず、2024年3月17日現在、調査中となっています。
カイロス能力向上型
2024年3月8日、スペースワンと防衛省はカイロスロケットの能力向上型の研究について、契約が成立したと発表しました。
これは、カイロスロケットの上段ステージ(おそらく第3段モーターやPBS等)の代わりに、メタン(≒LNG)エンジンを新規開発・適用するものです。メタンエンジンは次世代ロケット燃料として注目されています。スペースワンの主要株主である、IHIエアロスペースはメタンエンジンを研究していた経緯があり、カイロスロケット能力向上型に、その発展型エンジンを搭載して、打ち上げ能力の向上や軌道投入精度の向上を目指すものと考えられます。
カイロスロケットの性能、及び類似ロケットとの比較
機体名 | カイロス | イプシロン | ミューファイブ |
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開発国 [運用主体] | 日本 [スペースワン] | 日本 [JAXA・IA] | 日本 [JAXA] |
運用状況 [運用期間] | 開発中 | 運用中 [2013年~] | 退役済 [1997年~2006年] |
重量 | 23トン | 95トン | 140トン |
打ち上げ費用 [推定値] | 10億円(試験初号機) | 30億円~ | 75億円~ |
成功率 | 0% [0回/1回] | 83% [5回/6回] | 85% [6回/7回] |
打ち上げ能力 [低軌道] |
0.24トン [高度300km] | 1.2トン [高度250*500km] | 1.85トン [高度250km] |
打ち上げ能力 [太陽同期軌道] |
0.15トン [高度500km] | 0.6トン [高度500km] | - |
打ち上げ能力 [静止遷移軌道] | - | - | - |
備考 | 2024年3月31日時点 |