ファルコン9Falcon 9
ファルコン9とは
ファルコン9は、アメリカの宇宙開発企業スペースX社が開発・運用している世界初の実用再使用型ロケットです。2段式の大型液体ロケットで低軌道に22トン、静止遷移軌道に8.3トンのペイロード打ち上げ能力を有しており、日本の基幹ロケットであるH3ロケット以上の打ち上げ能力があります。ロケット直径は3.7mと日本のH3ロケットと比較すると細身なのですが、フェアリングは直径5.2mあり、H3と同規模の大型の衛星を搭載する事が可能です。さらに複数衛星搭載機構も開発されており、100個以上の小型衛星を同時に打ち上げる事もあります。
スペースXのロケット開発は、その過程で多くの試験・失敗を繰り返しつつも、そのデータを元に凄まじいスピードで研究開発を進める事で有名です。ファルコン9も多くのテストを短期間の間に繰り返し、開発・改良が進められました。ファルコン9は最初のバージョンであるv1.0から始まり、V1.1・フルスラスト・ブロック3・ブロック4とバージョンアップが進められ、現在使用されているのはブロック5と呼ばれています。2010年06月に初号機の打ち上げが成功して以降、2024年10月までに377回打ち上げられ374回成功。成功率99%と抜群の信頼性を発揮しています。
ファルコン9はその打ち上げ能力・低コスト・信頼性を活かして、低軌道衛星ネットワーク「スターリンク」を毎週の様に打ち上げたり、有人宇宙船「ドラゴン」の打ち上げを実施しています。人類の宇宙開発史上、最も優れたロケットと言っても過言ではありません。
イーロン・マスク
ファルコン9を開発したスペースX社は、2002年にアメリカの大富豪「イーロン・マスク」氏によって創業されました。マスク氏は、1999年にオンライン銀行を創業し、2002年に売却。数百億円の資金を得た後、スペースX社を起業しました。マスク氏は他に、電気自動車メーカー「テスラ」を創業し世界最大級の自動車メーカーに成長させる事にも成功。近年では「ツイッター」社も買収し、様々な分野に絶大な影響力を発揮し続けています。
マーリンエンジンと再使用化
通常ロケットは使い切りで、使用後は大気圏で燃やす、或いは海没させて廃棄して使い捨てるのが一般的でした。しかしファルコン9はそれらの常識を破り、第1段ロケットを回収・再利用する事によって打ち上げの低コスト化を実現しています。
ファルコン9には、ケロシンと液体酸素を推進剤とするマーリンエンジンが第1段ロケットに9機、第2段ロケットに1機搭載されています。第1段ロケットの第1回燃焼が終了・分離後、マーリンエンジンを再点火させて機体を減速させつつ、グリッドフィンやサイドスラスターで姿勢制御。着陸脚を展開し、無人船上ないし地上へ直立状態での着地を目指して開発が進められました。
数多くのテスト・試行錯誤の結果を2015年12月22日、ファルコン9・20回目の打ち上げに使用された第1段ロケットは地上パッドへの垂直着陸に成功。これはロケットが宇宙空間への打ち上げミッションを実施した後、素直着陸に成功した初めての事例でした。その後幾度かの回収・試験を経て2017年3月、回収した第一段ロケットの打ち上げにも成功しました。
2024年現在では、ファルコン9の全能力を使用する打ち上げではない限り、日常的に第1段ロケットは回収・再使用が実施されています。また衛星等を格納するフェアリングの回収・再使用にも成功しており、ファルコン9の低コスト化に寄与しているものと推測されます。
再使用する事が必ずしも低コスト化する事に直結する訳ではありません。世界初の再使用型宇宙船「スペースシャトル」は、再使用をする事で低コスト運用を見込んでいました。しかし打ち上げる度にかかるメンテナンス費用等がかさみ、結局スペースシャトルは2011年に退役しました。ファルコン9は再使用化する事以外にも様々な手段で低価格、高信頼性、高い打ち上げ能力を実現していると考えられます。
なお、回収・再使用する為に余分な推進剤を搭載する為、使い捨てる場合と比較して打ち上げ能力は数十%落ちるものと推測されています。現在のところ、回収・再使用するのは第1段ロケットとフェアリングのみで、第2段は制御落下・海没、或いは地球近傍を周回しつづけています。
ファルコン・ヘビー
ファルコン9シリーズには、より強力なファルコン・ヘビーと呼ばれる形態があります。これは通常のファルコン9第1段ロケットの横に2本、マーリンエンジンを9機搭載したサイドブースターを2本を追加した形態です。その打ち上げ能力は低軌道に63トン、静止遷移軌道に27トンにも上ります。
この機体はより大きなペイロードを打ち上げる為に使用され、特にアメリカ宇宙軍の極秘ミッションに使用される事が多い機体です。ファルコンヘビーは2018年2月に初号機が打ち上げられて以降、これまで10回打ち上げられましたが、その全ての打ち上げが成功しています。
ファルコン9ロケットの性能、及び類似ロケットとの比較
機体名 | ファルコン9 | H-2A | H3 |
---|---|---|---|
開発国 [運用主体] | アメリカ合衆国 [スペースX] | 日本 [JAXA・三菱重工] | 日本 [JAXA] |
運用状況 [運用期間] | 運用中 [2010年~] | 運用中 [2001年~] | 運用中 [2023年~] |
燃料 | ケロシン | 液体水素 | 液体水素 |
直径/重量 | 3.7m/549トン | 4m/445トン | 5.2m/422~574トン |
打ち上げ費用 [推定値] | 6975万ドル | 80~120億円 | 50億円~ |
成功率 | 99% [374回/377回] | 97% [47回/48回] | 75% [3回/4回] |
打ち上げ能力 [低軌道] |
22トン | 10~15トン [高度300km] | - |
打ち上げ能力 [太陽同期軌道] |
- | 3.6~4.4トン [高度800km] | 4トン以上 [高度500km] |
打ち上げ能力 [静止遷移軌道] | 8.3トン | 4~6トン | 6.5トン以上 |
備考 | 2024年10月時点のデータ スペックにファルコンヘビーのデータは含まれていません。 | 2023年01月時点 H-2A204型含む |