エレクトロンElectron
エレクトロンとは
エレクロトンは宇宙ベンチャー企業「ロケット・ラボ」社が開発した2段式の液体小型ロケットです。アメリカとニュージーランドに拠点を持ち、打ち上げもニュージーランド・マヒア半島やアメリカ・バージニア州から実施されます。アメリカ・ナスダック市場に上場しており、2024年10月現在、その企業価値は約7,000億円と評価されています。
エレクトロンは長さ約12m・直径1.2m・総重量13トン程の小型ロケットです。使用する推進剤はケロシンと液体酸素、低軌道に最大300kgのペイロードを打ち上げる事が可能です。主に1段ステージ・2段ステージによって構成されており、オプションでキックステージの追加が可能。フェアリングは様々な形態があり、多様な衛星・探査機を軌道上に投入できます。
優れた小型液体ロケット
2024年現在、スペースX社の世界初の実用型再使用ロケット「ファルコン9」が宇宙ロケット業界を席巻していますが、小型ロケット業界ではエレクトロンが最も頻繁に打ち上げられ、その存在感を示しています。
その低価格・使いやすさから日本企業の人工衛星を打ち上げ事も多く、これまでにキヤノン電子・QPS研究所・Synspectiveの地球観測衛星、ALE社の人工流れ星衛星等の打ち上げに使用されています。2017年に試験1号機を打ち上げて以降、2024年10月現在までに52回の打ち上げが実施され、内48回成功しています。
2024年06月にはSynspectiveから追加で10機の一括受注にも成功しており、現時点で最も優れた小型液体ロケットであると言っても過言ではないでしょう。
ラザフォードエンジン
エレクトロンの注目ポイントは、そのメインエンジンである「ラザフォード・エンジン」です。この重量わずか35kgのロケットエンジンは、燃焼室・インジェクター・ポンプ・推進剤バルブ等々、多くの主要部品が3Dプリンターで製造されており、迅速かつ大量生産する事に成功しています。エレクトロンはこのエンジンを第1段ロケットに9機、第2段ロケットに1機、それぞれ搭載しています。
さらに先進的なテクノロジーとして注目したいのは電動ポンプです。一般的なロケットエンジンでは、ターボポンプと呼ばれるガス駆動ポンプで推進剤を加圧して主燃焼室に送り込んでいます。ラザフォードエンジンではガス駆動のターボポンプではなく、電気駆動の電動ポンプを使用して燃焼室に推進剤を加圧して送り込みます。
電動ポンプには、ガス駆動のターボポンプと比較してバッテリーやインバータが必要になるものの、複雑なターボポンプが不要となり、全体的に簡素化出来る、推力制御も比較的容易である等々、様々なメリットがあります。この技術は世界で初めてラザフォードエンジンで実用化に成功しています。
再使用化の挑戦
エレクトロンは第一段ロケットエンジンの回収・再利用化にも挑戦しています。ファルコン9の様なエンジン噴射による着陸ではなく、パラシュート等で減速させて海上着水後に回収します。なお再使用化は低コスト化よりも、ロケット製造期間を省略する事による打ち上げ頻度向上を目的としています。
2022年5月に打ち上げられたエレクトロン26号機で使用されたラザフォードエンジンは、海上で回収に成功。翌2023年8月に打ち上げられたエレクトロン40号機の一部に搭載されました。打ち上げは成功、ラザフォードエンジンの再使用化にも成功しました。
エレクトロンロケットの性能、及び類似ロケットとの比較
機体名 | エレクトロン | カイロス | ZERO |
---|---|---|---|
開発国 [運用主体] | アメリカ・ニュージーランド [ロケット・ラボ] | 日本 [スペースワン] | 日本 [インターステラ・テクノロジーズ] |
運用状況 [運用期間] | 運用中 [2017年~] | 開発中 | 開発中 |
燃料 | ケロシン | 固体燃料 | 液化メタン |
直径/重量 | 1.2m/13トン | 1.35m/23トン | 2.3m/71トン |
打ち上げ費用 [推定値] | 750万ドル~ | 10億円(試験初号機) | 8億円 |
成功率 | 92% [48回/52回] | 0% [0回/1回] | -% [0回/0回] |
打ち上げ能力 [低軌道] |
0.27トン [高度400km] | 0.24トン [高度300km] | 0.80トン |
打ち上げ能力 [太陽同期軌道] |
0.2トン [高度500km] | 0.15トン [高度500km] | 0.25トン |
打ち上げ能力 [静止遷移軌道] | - | - | - |
備考 | 2024年10月05日時点 | 2024年10月14日時点 | 2024年3月31日時点 打ち上げ能力は将来最大能力 |