火星衛星探査計画MMXエムエムエックス

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MMXとは
MMX(Martian Moons eXploration)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心となって進める火星衛星探査・サンプル回収計画、及びそれに使用される探査機のことです。火星にある2つの衛星フォボスとダイモスを観測し、主探査対象であるフォボスへ着陸。表面から10g以上のサンプルを採取して地球へ持ち帰ることを目指しています。
これは日本の「はやぶさ」「はやぶさ2」で培われた小天体探査・サンプル回収技術をさらに発展させた計画です。この計画はJAXAだけでなく、NASA(アメリカ)、CNES(フランス)、DLR(ドイツ)、ESA(ヨーロッパ)も参加する国際共同ミッションとなっています。成功すれば、火星圏からサンプルを地球へ持ち帰る世界初のミッションとなる可能性があります。
MMXは「往路モジュール」「探査モジュール」「復路モジュール」の3つで構成されています。地球から火星圏へ向かう際は往路モジュールを使用し、火星周回軌道投入後に分離。フォボスの観測や着陸、サンプル採取を担う探査モジュールも任務終了後、火星圏を離れる際に分離します。その後はサンプルを搭載した復路モジュールだけで地球へ帰還し、最後にサンプルリターンカプセルを分離して地球の大気圏へ突入させます。
MMXは当初2024年度の打上げを予定していましたが、その後2026年度へ変更されました。そして2026年9月現在、打上げ日時は2026年10月20日午前4時41分03秒、種子島宇宙センターからH3ロケット10号機で打上げられる予定です。
打上げ後は約1年かけて火星圏へ向かい、2027年に到着。その後、約3年間にわたりフォボスやダイモス、火星周辺を観測し、フォボスへの着陸とサンプル回収を試みます。2030年に火星圏を離れ、約1年かけて地球へ帰還。2031年度にはサンプルを収めたカプセルを地球へ降下させる予定です。
MMXの目的
MMXの目的は大きく分けて2つ、惑星科学と探査技術獲得です。前者は火星衛星の起源や火星圏の進化を明らかにすること、後者は火星圏への往還技術や天体表面での高度なサンプリング技術、遠距離通信技術などの獲得を目指しています。
特に注目されるのは火星衛星の起源、「フォボスとダイモスはどのように誕生したのか?」という謎の解明を目指す点です。火星衛星の起源については、大きく分けて2つの説があります。1つは、小惑星が火星の重力に捕らえられて衛星になったという「捕獲説」。もう1つは、大昔に巨大な天体が火星へ衝突し、宇宙空間へ飛び散った物質が集まって衛星になったという「巨大衝突説」です。現在でもどちらが正しいのか決着していません。
もし捕獲説が正しければ、フォボスには太陽系の外側から運ばれてきた始原的な物質が残されている可能性があります。逆に巨大衝突説が正しければ、フォボスには太古の火星や火星へ衝突した天体の物質が含まれている可能性があります。
サンプル回収はフォボスから行いますが、フォボスには火星表面から隕石などにより吹き飛ばされた物質が堆積していることが考えられます。MMXはフォボスの物質だけでなく、火星表面由来の物質採集も期待できると言えます。2020年代の日本の宇宙開発の中でも、最も壮大な探査計画の1つとなるでしょう。
衛星フォボス
今計画の主探査対象は火星衛星フォボスです。衛星とは惑星の周りを回っている天体のことです。地球には衛星(=月)が1つしかありませんが、火星にはフォボスとダイモス、2つの衛星があります。ちなみに月は直径3,500km程ありますが、フォボスは直径22kmしかなく、重力も極めて小さいです。その小ささゆえ、将来的には天然の宇宙ステーションとして活用される可能性もあります。
フォボスの特徴の1つとして、自転周期と公転周期がほぼ同じである点が挙げられます。フォボスは火星の周りを約7時間40分で1周していますが、このように公転周期と自転周期が一致することを「同期回転」と言い、フォボスは常にほぼ同じ面を火星に向けています。これは地球の月が常にほぼ同じ面を地球へ向けているのと同じです。
フォボス擬周回軌道
MMXは火星圏に到着後、火星周回軌道に投入されます。その後、役目を終えた往路モジュールを分離し、探査モジュールと復路モジュールでフォボスへ接近、「擬周回軌道(QSO:Quasi-Satellite Orbit)」と呼ばれる軌道に投入されます。
これはフォボスではなく火星を周回する軌道の1つです。擬周回軌道に投入されるMMXは、実際にはフォボスそのものを周回しているわけではありません。この軌道はフォボスと同じように火星の周りを回る軌道で、その軌道はフォボスからわずかにずらされています。
この軌道に投入されたMMXは、あたかもフォボスの周囲をぐるぐる回るように航行できます。MMXは高度の異なる複数の擬周回軌道を使い分けながらフォボスを観測します。フォボスは前述したように常に同じ面を火星へ向けていますが、擬周回軌道を利用することで、広い範囲を様々な方向から観測することができます。それにより地形や岩石の分布などを調べ、安全に着陸できる場所を探します。
日本は過去に火星探査機「のぞみ」の火星周回軌道投入を目指しましたが、探査機のトラブルによって断念しています。MMXにとっても火星周回軌道投入は、ミッション序盤の大きな山場となるでしょう。
小型ローバ「IDEFIX」
MMXには探査機本体とは別に、小型ローバ「IDEFIX」も搭載されています。IDEFIXはCNES(フランス)とDLR(ドイツ)が中心になって開発されたローバで、MMX本体より先にフォボス表面へ降下し、約100日間にわたって地表を走行します。
これは科学観測だけが目的ではありません。フォボスはこれまで探査機が着陸したことのない天体です。そのため実際の表面がどれほど柔らかいのか、ローバの車輪がどのように地面へ沈むのかといった事も分かっていません。IDEFIXが本体より先に表面を走ることで、MMX本体の着陸をより安全に行うための情報を得ることができます。小型ローバが先に現地を調査し、その情報を使って大型のMMX本体が着陸するという計画です。
2種類のサンプル採取装置
フォボスの重力は小さいとはいえ小惑星リュウグウよりは大きく、着陸条件が異なります。また地球から火星までは電波が届くのに数分から20分程度かかるため、地上からリアルタイムで操縦することもできません。そのためMMXは、カメラやレーザ高度計などを使って自分自身の位置を判断しながら、自律的にフォボスへ降下・着陸します。
着陸後に使える時間は長くありません。JAXAが公開しているサンプリング運用の紹介では、MMXはフォボスの日の出頃に着陸し、約2時間半後の日没までに離陸する想定で、そのうち約90分がサンプル採取に割り当てられています。短い時間の中で地面の状態を確認し、採取場所を決め、サンプルを回収しなければなりません。
しかもフォボスの表面が実際にどれほど硬いのか、どの程度細かな砂で覆われているのかは、行ってみなければ完全には分かりません。そこでMMXには、全く方式の異なる2種類のサンプル採取装置が搭載されています。
主となるのがJAXA側で開発されたC-SMP(コア・サンプラー)です。C-SMPではロボットアームの先端に「コアラー」と呼ばれる円筒形の採取装置を取り付けます。採取地点を決めるとコアラーをフォボス表面へ打ち込み、表面から深さ2cm程度にある物質を筒の中へ取り込みます。3つのコアラーが用意されており、MMXは異なる地点で2回のサンプル採取を行う予定です。
もう1つがP-SMP(ニューマティック・サンプラー)です。NASAの協力で提供され、MMXの着陸脚の1本に取り付けられています。P-SMPは窒素ガスをフォボス表面へ吹き付け、その勢いで舞い上がった砂や細かな粒子を採取する装置です。C-SMPが地面へコアラーを打ち込むのに対し、P-SMPはガスを使うため全く違う方式になっています。P-SMPはフォボス表面が硬く、C-SMPでは十分なサンプルを採取できない場合に備える役割もあります。
C-SMPが地表から少し深い場所までの物質を採取するのに対し、P-SMPは最表層の粒子を採取できます。両者を比較することで、宇宙空間に直接さらされ続けた最表面と、その下にある物質との違いを調べることができます。
帰還
フォボスやダイモスの探査を終えたMMXは、火星圏を離脱する際に探査モジュールを分離し、復路モジュールだけで地球へ向かいます。2031年度に地球へ到着すると、フォボスのサンプルを収めたサンプルリターンカプセルを分離。カプセルは地球の大気圏へ突入し、地上で回収される予定です。
