通信衛星コンステレーションCommunication Satellite Constellation
通信キャリアの宇宙開発事業
このページでは、日本国内の通信キャリア、NTT・KDDI・ソフトバンク・楽天の通信衛星を活用した宇宙開発事業についてまとめています。
最近の宇宙空間通信には衛星コンステレーション、つまり多数の衛星が協調動作する大規模なシステムとなることが多く、多額の資金を必要とします。楽天を除く三大キャリアと呼ばれる大企業は豊富な資金力を有しており、大規模な宇宙開発が期待されます。
NTT
NTTは国内最大の通信事業者です。NTTは2022年、スカパーJSAT(国内最大の衛星通信・放送事業者)との合弁会社Space-Compass社[スペースコンパス]を設立し宇宙事業を本格的に開始しました。スペースコンパスは主に3つの宇宙事業を計画しています。
まず宇宙データセンター事業。これは軌道上に配備した複数のデータセンター衛星により構成されます。他社の地球観測衛星の観測データをデータセンター衛星で受取・処理後、地上に送信します。これらの衛星間通信・衛星地上間通信には、従来の電波通信より高速な光通信が使用され、リアルタイムのデータ取得が可能になる見込みです。まずその第一弾として、米スカイルーム社と共同開発した「SkyCompass-1」を2024年度に静止軌道上に打ち上げる予定になっています。
2つ目は宇宙センシング事業。これは地上通信網が整備されていない場所にあるIOT端末のデータを、衛星から収集する目的の低軌道衛星群です。2022年に革新的衛星技術実証3号機に試験コンポーネントが搭載されていましたが、同衛星を搭載していたイプシロン6号機が打ち上げに失敗。ロケットは搭載衛星ごと爆破されました。これらの試験コンポーネントは2024年に打ち上げ予定の革新的衛星技術実証4号機に再度搭載され、技術実証を試みる予定です。
最後に宇宙RAN事業。この事業はHAPS(高度20km位の成層圏を飛行する無人飛行機)・低軌道衛星・静止軌道衛星群により構成される、電波による宇宙空間通信ネットワークです。これらは携帯端末と直接通信可能なシステムです。2023年にHAPS技術実証、2025年からは低軌道衛星技術実証が行われる予定です。
なお、これらの衛星を打ち上げるロケットは発表されていません。
KDDI
KDDIは国内2位の通信事業者です。しかしKDDIは独自の通信衛星を打ち上げる計画を持っていません。
KDDIは米スペースX社と提携しており、同社の世界最大の衛星コンステレーションStarlink[スターリンク]を光回線がない地域の基地局と順次繋げています。スターリンクはすでに数千機が低軌道上に打ち上げられ、実際にサービスを提供しています。
ソフトバンク
ソフトバンクは国内3位の通信事業者です。ソフトバンク自体に通信衛星打ち上げ計画はありませんが、マイノリティ出資しているOneWeb[ワンウェブ]が低軌道衛星通信ネットワークを構築しています。ソフトバンクは元々OneWebの大株主として経営に関与していましたが、2020年に資金難で倒産。インドの通信企業とイギリス政府の元で再建され、さらに2022年にフランスの衛星通信会社と合併。ソフトバンクは少数株主に転落しています。
ワンウェブは、高度1200km付近に数百機の低軌道衛星を配備して宇宙通信ネットワークを構築しています。これらは携帯端末との直接通信ではなく、別途アンテナを必要としています。衛星打ち上げは、主にロシアからソユーズロケットで打ち上げられていましたが、ウクライナ・ロシア戦争の影響でインドのLVM3や米国のファルコン9ロケットからの打ち上げに変更されています。
他に米SkyloTechnologiesと提携して、静止衛星軌道上からIOT端末との通信サービス提供を予定していますが、ソフトバンクとの資本関係はありません。
楽天
楽天グループは近年携帯通信事業に新規参入した情報通信企業です。楽天自体に衛星打ち上げ計画はありませんが、アメリカの衛星通信事業者AST-SpaceMobileに出資・提携しており、低軌道衛星ネットワークSpaceMobile[スペースモバイル]の提供を目指しています。
スペースモバイルの特徴は巨大なアンテナを搭載する事により、携帯端末と直接通信できる事です。これらの通信速度は数Mbpsと一般的なモバイルネットワークと比較して低速ですが、地上基地局がない山間部や離島、災害時にもモバイル通信サービスが提供できます。
2022年09月、64平方メートルもの巨大なアンテナが搭載された試験衛星BlueWalker3が米ファルコン9ロケットで打ち上げられました。2023年02月現在、地上端末との通信試験は未実証ですが、将来的には168機の低軌道衛星から成る衛星ネットワークが構築される予定です。
通信衛星の打ち上げ需要
衛星コンステレーションは多数の衛星を打ち上げる必要がある為、多数のロケットを必要とします。これらの打ち上げ需要を日本のロケットで獲得する事は、日本の宇宙開発にとても重要です。
現状の国内の通信衛星打ち上げ需要で最も有望視されるのは、NTTが構想中の通信衛星コンステレーションと考えられます。OneWeb・スペースモバイルの打ち上げ需要は、H3ロケットが軌道に乗れば受注できる可能性はあります。スターリンク衛星は、自社のファルコン9ロケットで打ち上げていますので、これらを日本から打ち上げ事はまずありえません。