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民間SAR衛星Synthetic Aperture Radar

SAR衛星とは

地上を観測する衛星には大きく2つに分類されます。1つは可視光を撮影する光学衛星、これは要するにデジタルカメラです。もう1つは電波を使って撮影するSAR(サー)衛星です。このページでは後者のSAR衛星について説明しています。なおSARは合成開口レーダーとも呼ばれています。(光学衛星についてはこちら)

SAR衛星とは通常のカメラと違い、電波で地表面・海面を撮影する人工衛星で、雲を透過し悪天候時や夜間でも撮影可能な地上観測衛星です。光学衛星と比較すると鮮明度が劣る分、常時観測可能な事が利点です。中でも防衛・安全保障面での活躍が注目されておりますが、地震・浸水被害・地盤沈下等の災害対策にも大きく貢献しています。

どんなSAR衛星は優れているのか?

SAR衛星の評価項目は色々ありますが、やはり重要なのは分解能です。どれくらい小さいな物を見分けられるか?という指標です。1mの分解能があれば、1m程度の物体がそこに存在するが分かります。分解能が高ければ高いほど、より小さなものが識別できます。(分解能1mは、分解能3mよりも分解能が高いと表現します)

他にも撮影範囲・頻度や製作・運用コスト等も、SAR衛星を評価する上で大変重要な項目です。最近では大型の人工衛星ではなく、「衛星コンステレーション」と呼ばれる複数の小型衛星を協調動作させて運用されるシステムを構築する場合が多く、地球観測衛星の衛星コンステレーションは撮影頻度の向上が期待できます。

誰がSAR衛星を運用しているか?

SAR衛星は大型で多額のコストがかかる為、開発・運用はほとんど政府機関によるものでした。主なSAR衛星には、内閣府が運用する情報収集衛星やJAXA(日本政府の宇宙開発機関)が運用している大型SAR衛星だいち2号・4号(ALOS-2・4)があります。

しかし最近では技術革新により小型SAR衛星の製造が可能となっており、民間の宇宙開発ベンチャーであるQPS研究所やSynspective社が小型SAR衛星を多数打ち上げ・運用しています。

QPS研究所

QPS研究所は、東証グロース市場に上場している九州発の宇宙開発ベンチャー企業です。QPS研究所は170kg前後の小型SAR衛星QPS-SAR(キューピーエス・サー)を開発・運用しています。

2024年09月13日現在、QPS-SAR4機(5・6・7・8号機)が軌道上に展開しています。これらQPS-SARは分解能46cmという、高い観測精度を有しています。3号機以降の商用機には、追加の太陽電池・バッテリー・軌道上画像化装置・衛星間通信装置・軌道制御用の電気推進スラスターが追加搭載され、様々な機能向上が図られています。なお残念ながら3・4号機は打ち上げ失敗につき喪失、6号機は推進スラスター異常により2024年内に大気圏突入する予定であり、5号機も機能不全を起こしています。

なお、QPS研究所は様々な官公庁の支援を受けています。主だったものでは、高分解能・広域観測を実現する小型SAR開発事業に経済産業省から最大41億円の補助金が交付される予定です。このSAR衛星の開発はJAXAとの共同ですすめられており、2027年頃の打ち上げ・軌道上実証が計画されています。

共同研究案件は他にも複数あり、例えばJAXAが開発中である「オンボードPPP」装置が、2025年に打ち上げられるQPS-SAR10号機に搭載される予定です。これは干渉SARサービスの画像精度向上等を目的として、軌道上で高精度単独測位が可能となる装置です。

また防衛省よりSAR衛星の試作・打ち上げを70億円で受注しており、このSAR衛星は衛星間光通信機能やより高度な軌道上画像処理機能を有するものと考えられます。このSAR衛星は2027年頃の打ち上げが計画されており、将来の追加発注が期待されます。

QPS研究所は福岡市に新拠点の開設し、QPS-SARを年産4機体制から年産10機体制への拡張し、2028年5月までに24機体制の構築を目指しています。将来的にはSAR衛星36機による衛星コンステレーション構築を目指しており、完成時には地球のどの地点でも平均10分に1回撮影できる様になる見込みです。

Synspective

日本の宇宙開発ベンチャーSynspective(シンスペクティブ)社は、100kg級の小型SAR衛星StriX(ストリクス)を開発・運用しています。Synspective社は多数のベンチャーキャピタルから出資を受けており、今後の上場が期待されています。

2024年09月13日現在、StriX4機(β・1・3・4号機)が軌道上に展開しています。これらは分解能90cm・観測幅10kmという観測精度を有しています。また2024年5月頃には、スラントレンジ分解能50cm×スラントアジマス分解能25cmという高精度観測に成功しています(グランドレンジ分解能とは別の指標)。

これまで打ち上げた全てのStriXはほぼ計画通り稼働しているみられ、高い信頼性を示していると考えられます。また、防衛省から複数の案件を受注しており、2024年8月には「安全保障用途に適した小型SAR衛星の宇宙実証」事業に採択されたStriX-4の打ち上げに成功しています。

Synspectiveは撮影画像の解析・ソリューション事業を内製化しており、これはQPS研究所との大きな違いとなっています。Synspectiveは神奈川県大和市に新工場を開設し、2020年代後半を目標に30機体制の衛星コンステレーションを完成させ、高頻度観測体制の構築を目指しています。

UPDATE:2024年9月13日

日本のSAR衛星比較

JAXAのSAR衛星は単機で広範囲をカバーする事を目的としていますが、民間のQPS研究所・Synspectiveは小型・多数運用を前提とした衛星コンステレーションで運用されています。

SAR衛星名 QPS-6号機 StriX-3 ALOS-4
運用 QPS研究所 Synspective JAXA
運用時期 2023年~ 2024年~ 2024年~
周波数 Xバンド Xバンド Lバンド
重量 170kg 100kg級 3,000kg
分解能/観測幅
[高精細モード]
0.46m/7km 0.9m/10km 1m×3m/35km
分解能/観測幅
[広域モード]
0.46m×1.8m/7km 2.6m×3.6m/10~30km 25m/700km

注意:①分解能はグランドレンジ基準です。②Synspectiveの新撮影モードは実施機が不明なのでデータに含んでいません。

参考ページ

宇宙探査機

人工衛星

宇宙船

宇宙ステーション