MENU

スペースデブリ除去(EOL・ADR)衛星Space debris removal

スペースデブリとは何か?

スペースデブリとは、宇宙空間に存在する「機能停止、あるいは制御不能の人工衛星」「打ち上げに使用されたロケット上段部」、或いはそれらの破片の事をいいます。つまり人類が作り出した宇宙空間に漂うゴミです。2022年現在その数は、大きさ数十cm以上は数万個、数mm以上の物は数億個あるとされています。

スペースデブリ除去衛星は、それらスペースデブリを捕獲、或いは減速させ、大気圏に突入させて燃え尽きさせる事ができる人工衛星の事を言います。2024年12月現在、実用化されたスペースデブリ除去衛星は無く、日本ではアストロスケール社やオービタルレーザー社等、複数の企業が様々なタイプの除去衛星を開発中です。

なぜスペースデブリを取り除く必要があるのか?

それはそれらが超高速、実に時速10,800~28,000km以上のスピードで地球のまわりを飛ぶ危険物だからです。ネジ1個のデブリでも人工衛星に衝突すれば破壊され、宇宙飛行士に衝突すれば致命的な影響が出ます。しかもスペースデブリは人類の宇宙進出の拡大と共に、急速に増大し続けています。

現時点でデブリが多くあるとはいえ、広い地球軌道上では人類の宇宙進出を妨げてる程ではありません。但しこのまま状況を放置すると、他の衛星・宇宙船・宇宙飛行士に衝突する惨事が続発したり、デブリが多くなりすぎて新規ロケットの打ち上げも、ままならなく成るかもしれません。地球軌道上のデブリを除去する事は、人類が宇宙空間へ進出し続ける為に非常に重要な仕事です。

軌道上の危険な人工物を軌道上から低減・除去するサービスは2種類に分けられます。ややこしいですが、人工衛星がスペースデブリ化する前に対処するのがEOLミッション。スペースデブリ化してしまった物体の除去するのがADRミッションとなります。

EOL(エンド・オブ・ライフ)
人工衛星等がミッション・サービスを終了後、「スペースデブリ化する前」に地球軌道上から除去するサービスです。除去対象にはドッキングプレート等、事前に捕獲用の機器が搭載されています。
ADR(アクティブ・デブリ・リムーバル)
スペースデブリ化したロケットの残骸、制御できていない人工衛星を地球軌道から除去するサービスです。除去対象は自らの位置を発信していない・コントロールされていない、軌道からの除去に対応していない非協力物体です。

RPO技術とは

RPO(Rendezvous and Proximity Operations)技術とは、対象の宇宙機に対してランデブー(合流)して、その近傍で様々なミッションを実施する事が出来る技術の総称です。例えば、地球上のセンサー情報を元に対象に接近する絶対航法技術、自機のセンサーで対象を捉えてより近傍に接近する相対航法技術、自機と対象機の速度・回転を合わせる技術、それらをより自律的に動作させる技術、等々で構成されています。

RPO技術を有する宇宙機であれば、対象を観察する事で情報収集(ISSA)ミッションを実施する事が可能です。それに加えて、捕獲して給油する機能を付加すれば人工衛星の寿命延長(LEX)ミッション、捕獲して加速すれば軌道保持ミッション、そして捕獲して減速させればスペースブデブリ除去ミッションが可能となります。RPO技術は、様々な軌道上サービスの基礎となる技術と言えるでしょう。

Astroscale

Astroscale(アストロスケール)社は、日本の宇宙開発ベンチャー企業です。スペースデブリ除去衛星の他、寿命延長衛星(LEX衛星)、軌道上の故障機や物体の観測・点検衛星(ISSA衛星)の開発を進めています。スペースデブリ除去のみならず、広範囲に軌道上サービスを展開する企業で、日本本社の他、英国・米国・フランス・イスラエルに展開しています。後述するADRAS-Jによって、世界でも数少ないRPO技術を軌道上実証した企業です。

以下は、アストロスケール社が開発、或いは開発中のEOL・ADR衛星です。

ELSA-d(エルサ・ディー)
2021年03月に打ち上げられた、模擬衛星とその捕獲機で構成されるEOL(人口衛星サービス終了)技術実証衛星。最初の試験捕獲は成功したものの、自立捕獲のテスト中に推進システムが故障。自立捕獲は出来なかったものの、各種試験を実施し2024年に運用終了。
ADRAS-J(アドラス・ジェイ)
2024年02月に打ち上げられたADR(スペースデブリ除去)技術実証衛星。デブリ捕獲試験は実施しません。軌道上の大型デブリ(H-2A:15号機第2段ロケット)を対象にしたランデブー・近傍運用(RPO)技術の軌道上実証を実施。2024年7月、相対距離50mで対象の周回観測に成功。2024年11月には、相対距離15mまで接近する事に成功。今後エクストラミッションとして、スラスタ噴射による対象の回転運動低減実験を実施する可能性があります。
ELSA-M(エルサ・エム)
2025年頃打ち上げ予定のEOL(人口衛星サービス終了)衛星。ELSA-dの後継衛星で、英国拠点で製造・運用。化学推進・電気推進機関を搭載しており、磁石で捕獲できるドッキングプレートを搭載したワンウェブ社の通信衛星3機を磁石で捕獲、実際に軌道上から除去するテストを実施。成功すれば、日本初のEOLミッション実施となる予定。なおEOL用ドッキングプレートが搭載された人工衛星は、2024年3月時点で軌道上に568機存在。
COSMIC(コズミック)
2026年頃に打ち上げられるADR(スペースデブリ除去)衛星。英国の衛星2機を、軌道上から除去する英国宇宙庁のミッション。ELSA-Mをベースに英国拠点で製作され、ロボットアームで対象デブリを捕獲・除去を目指す。世界初のスペースデブリ除去となる可能性があります。但しこのミッションには競合が1社(クリアスペース社)が存在しており、最終フェーズの受注は確定していない為、実施されない可能性があります。
ISSA-J1(アイエスエスエー・ジェイワン)
2026年頃に打ち上げられるADR・ISSA(宇宙機の観測・点検)技術実証衛星。日本拠点での製造が想定され、低軌道の大型衛星デブリ2機に対して、ランデブー・近傍運用(RPO)を実証。電気推進機関を搭載し、より自動化された運用を目指す。実際にデブリ除去は実施しません。このミッションには政府からの最大120億円の補助金が交付される。
ADRAS-J2(アドラス・ジェイツー)
2027年頃に打ち上げられる予定のADR(スペースデブリ除去)衛星。軌道上の大型デブリ(3トン程度のロケット上段ステージ)をロボットアームで捕獲して減速、実際に軌道上から除去。JAXAのCRD2フェーズ2に採択され、補助金最大114億円が交付される見込み。日本拠点での開発が想定されます。

Orbital Lasers

Orbital Lasers(オービタルレーザーズ)は日本のスカパーJSATの子会社で、レーザー(光線)を使ったスペースデブリ除去事業を計画しています。レーザーをどの様に使うかと言うと、レーザーアブレーションという現象を用います。これは対象物にレーザーを当てる事により、対象表面を気化・プラズマ化させ推力を発生させる事で、対象物の回転を停止・減速させる事ができます。

オービタルレーザーズのスペースデブリ除去事業は2つのサービスがあります。まず1つ目のデタンブリング事業は、低出力レーザー照射によってデブリ回転を止める事ができる装置の外販です。回転しているスペースデブリ捕獲はかなりの難易度があると考えられますが、レーザーアブレーションによってその回転を止める事ができれば、ミッション難易度が低下すると考えられます。

例えば、上記アストロスケール社のADR(スペースデブリ除去)衛星は、対象デブリと同様に自機を回転させて捕獲する設計ですが、この装置を使えば対象デブリを停止させてから捕獲する事が可能になり、ミッションが容易になる可能性があります。なおこの装置は2025年からの販売が計画されていますが、まだ軌道上実証はされていません。

次により期待されるのが、実際にスペースデブリを除去する事業です。オービタルレーザーズ社自身が、レーザーを搭載したADR衛星を運用します。レーザーといっても、一瞬で対象物を破壊・減速させるような出力はなく、100~200kg程度の小型テブリに対し数十ワットクラスのレーザーを数か月~数年かけて照射し、対象物を軌道から除去します。

オービタルレーザーズのADR衛星は2027年後頃、打ち上げ・軌道上実証が計画されており、順調に進めば2029年頃にADRサービス開始を予定しています。

UPDATE:2024年12月15日

主な参考ページ

宇宙探査機

人工衛星

宇宙船

宇宙ステーション