民間月面探査プログラム HAKUTO-Rハクトアール
HAKUTO-Rとは
HAKUTO-R(ハクトアール)は、日本の民間ベンチャー企業のispace(アイスペース)により計画されている商業月面探査・輸送事業です。これは2010年代に企画されたgoogle社の月面探査レースに向けて開発された、HAKUTOの発展計画です。残念ながら月面探査レースは、全ての参加予定者が月面に探査機を送り込めずに終了しています。HAKUTO-Rの「R」は再起動(reboot)からきています。
ispace社は、日本・米国・ルクセンブルグに拠点を持ち、東証グロース市場に上場している日本企業です。月面着陸機は主に日本・米国それぞれの拠点で開発され、ルクセンブルグでは月面を走行するローバー等を開発しています。月面探査機に搭載するペイロード(荷物)スペースの販売・月面探査データの販売・他スポンサーからの収入によって、商業月面輸送・探査サービスの成立を計画していますが、2024年3月期決算では赤字となっております。
HAKUTO-Rミッション1
HAKUTO-Rミッション1(以降M1)は、HAKUTO-R計画の第1弾として計画された月面探査計画です。M1では、月面まで様々なペイロード(荷物)を輸送できる月面着陸機Series1(シリーズ・ワン)の開発が、ispace社日本拠点で進められました。総重量約1トン、搭載可能ペイロード30kgの比較的小型の月面着陸実証機です。
キー技術である、月面着陸誘導制御システムはアポロ宇宙船開発も担った米ドレイパー研究所が開発しており、一部技術はispace社に技術移転されるとの事です。ペイロードにはパートナー企業である日本特殊陶業の固体電池・アラブ首長国連邦の小型月面探査車・JAXAの変形型月面ロボット等々が搭載されていました。
月面着陸機Series1は2022年12月11日、米国のファルコン9ロケットにより打ち上げられ無事予定の軌道投入に成功しました。Series1は順調に飛行を続け、2023年03月下旬に月周回軌道の投入に成功。同年4月、月面着陸を試みたものの高度測定トラブルによりSeries1は月面に激突。着陸機は大破したものと考えられます。しかし着陸へ至る様々なデータ取得には成功しており、得られた情報は後続のミッションへとフィードバックされています。
HAKUTO-Rミッション2
HAKUTO-Rミッション2(以降M2)は、M1同様に地球・月間輸送サービス・月面データサービスの技術検証プロジェクトです。使用される月面着陸機レジリエンスはM1で使用されたSeries1とほぼ同一の機体ですが、M1の運用データからソフトウェアの改修等が施されています。
月面着陸機自体はほぼ同一ですが、搭載しているペイロードは全て違います。高砂熱学工業の月面用水電解装置など6つのペイロードを搭載していますが、一番の注目はTENACIOUS(テネシアス)と名付けられたローバー(月面探査車)です。
このローバーはispace-ヨーロッパで自社開発された総重量5kg・搭載可能ペイロード1kgの極めて小型のローバーです。ローバーに搭載してあるスコップで月面の砂をすくいNASAと商取引をしたり、ミニチュアハウスを月面に設置したりと様々なミッションが計画されています。
レジリエンスは2024年12月以降に米国のファルコン9ロケットで打ち上げられ、順調に行けば2025年春頃に月面着陸に挑戦するものと思われます。成功すれば日本で民間初の月面着陸機となります。
HAKUTO-Rミッション3~5
さらなる後続ミッションとして、HAKUTO-Rミッション3(以降M3)も計画されています。これはレジリエンスの開発・運用データを基に、アメリカ子会社ispace-usが主導して開発している月面着陸機APEX1.0(エイペックス・ワンポイントオー)が使用されます。
APEX1.0はレジリエンスよりかなり大型化しており、総重量5.4トン・最大ペイロード300kgとレジリエンス比で10倍以上のペイロードが搭載可能な仕様となっており、月面着陸誘導制御シテムはレジリエンスと同じく米ドレイパー研究所が担当しています。
搭載ペイロードにはNASAの科学ミッション機器の他に2機の通信衛星も搭載しており、これらは月面着陸前に月周回軌道へ投入される予定です。これまでのミッションと同じくローバー(月面探査車)が搭載されおり、その概要は未発表ですが、こちらもispace-ヨーロッパのルクセンブルグ拠点での自社開発が予想されます。
APEX1.0は2026年頃に打ち上げられ、月南極付近のシュレーディンガー盆地への着陸に挑戦する予定です。APEX1.0はその後のミッション4・ミッション5でも使用される予定です。
HAKUTO-Rミッション6
HAKUTO-Rミッション6として、レジリエンス(Series1含む)・APEX1.0に続くispace社3つ目の月面着陸機Series3(シリーズ・スリー)ランダーの開発が進められています。大きさとしてはAPEX1.0と同規模で搭載可能ペイロードは数百kg、誤差100m以下の高精度着陸が可能な月面着陸機です。
APEX1.0との大きな違いは、これが日本主導で開発される事です。このプロジェクトは経済産業省の中小企業イノベーション創出推進基金フェーズ3に採択させており、最大120億円の補助金が支給されます。順調に開発が進めばSeries3ランダーは2027年頃、H3ロケットにより打ち上げられます。